図 書 室55
わたしのしくみ                                              夏石 鈴子 著
 

どの様な切り口で感想を述べようか。。。。率直に言うとこの本はとてもエロく官能的なエッセイである。 

自分としては、この手の本は殆ど手にする事は無いが読んでいくと色々な意味で勉強になる。

この本の著者は勿論女性である。ゆえに性に対する表現が女性視点から書かれており、さらにその年齢対象として30代~40

代のOLや主婦の視点で書かれている。   読みすすめるほどに・・・・なるほど・・・・なるほど・・・ う~ん勉強になる。。。。

通常のOLや主婦の内面にある性に対する思いをためらい無く切り込んで表現されており、とても生き生きとした人間らしさが

出ている。

文章での官能表現と言うのは、人間の本来備わった想像力を増幅させ前頭葉大脳皮質をとても刺激してくれる。

その意味においても久しぶりにエロい擬似空間を体験させてもらえた本である。

男性視点で見るならエロ体験はビジュアルから入るのが殆どと思うが、その点今の時代ネットでいくらでもポルノやエロに関して

閲覧可能である。 よって多くの男性はダイレクトにエロ画像やAVを見るとの選択をする直接的なアプローチが多いと思う。 

それはある意味無粋というか便利と言うか。。。   当然、人それぞれで趣向(性向)は違うと思う。 

作者の表現力が大きく影響するが、そんな中でも人間の想像力を豊かにすると言う意味において文章というツールには侮れない

力がある。  その点、この本は十分楽しめると思う。

考えて見ると何故ゆえにポルノを見たりエロ画像みて精神が興奮するのか?  この事に関して恐らく人類史として延々と論じら

れて来たことと思うので、特にここでは深く考察するつもりはない。 しかし簡略的に意見を述べると、人間の心の深い所にある

欲望とそれに対する後ろめたさと言う感情が交差し、そのために秘めた物として扱われる。その事がかえって興奮という現象と

潜在的な罪悪感を助長する。すなわちこれは歴史の中で性と言うものを人間の根源で当然関心が高いにも関わらず、秘めた

ものでありネガティブなものとして扱ってきた部分が多いからだと思われる。 

その結果、重大ではないが何か悪いことをしているとの心理状態が作り上げられ、意識的であれ無意識的であれ刺激の麻痺し

た生活の中で、精神を興奮させる効果がある。  当然、超多忙の人間はそんな精神的な余裕などないのであるが。 

先に述べたように性欲は肉体をもった人間であれば、ほぼ例外なくだれもが持っているものである。

当然人間の行動要因の大きな部分で影響を及ぼしているのが性欲であり、人類の歴史的な変節点の多くに男女関係の性にま

つわる事柄が間違いなく関わっているはずである。

いずれにせよ肉体を持った人間として生きていく上で必要不可欠であり、自然なことであるのは火を見るより明らかなのだから

もっとオープンに健全に表現されるべきものであろうと思う。

ただ、ここで重要な点は性欲に限らず人間にある多くの欲は、その根底には意識構造として欠乏感がすべての始まりとなる。

つまり私には何かが足りないと言う、いつも何か満たされていないとの思いとそれに伴う潜在的不安と恐れ、このトリックに気が

つかない限りいくら新たな変化を求め一時の満足と多くの経験と積んだつもりでも、結局はまだ足りないと言う感情を何度も味

わう結果となる。 その意味で性欲はとてもシンプルで分りやすい。


さて、この著者は、この本以外にも多くのエッセイ等を残している。主婦でありOLである著者ならではの視点で、まさに普通の

女性の社会との関わりと、そしてそんな社会の中で一見強くもあり気弱でもある30~40代女性の微妙な心理状態を面白おかし

く表現している。 同年代の女性には共感を得ることが多いと思われる。

また『新解さんの読み方』と言う本は、だれもが一度はお世話になったことがある新明解国語辞書を独特の切り口で解説してい

る本で高い評価を得ている。